371、ロマンス

 

理性のきえた目で 彼は私を見つめる。 −
あなたの家と玄関は 私にはもう長くお馴染みのもの。
暗紅色の唇で 彼は私にくちづける − 
私たちの祖先は 鋼鉄の鱗におおわれて 戦争へ行ったのね。

彼は 暗紅色の釘のブーケを 私に持ってきてくれた −
あなたの厳しいお顔は 私にはもう長いことお馴染みのもの。
ブーケの代償に 彼が望んだのは ただ一度きりのくちづけ −
私たちの祖先は 鋼鉄の鱗におおわれて 戦争へ行ったのね。

黒い指輪をはめた指で 彼は私にそっとふれた ―
あなたの黒い指輪は 私にはもう長いことお馴染みのもの。
トルコ風の長椅子に 私たちふたり なだれ込んだ ―
私たちの祖先は 鋼鉄の鱗におおわれて 戦争へ行ったのね。

理性のきえた目で 彼は私を見つめる ―
おお 星よ きえて! 月よ 蒼褪めよ!
暗紅色の唇で 彼は私にくちづける ―
私たちの祖先は 鋼鉄の鱗におおわれて 戦争へ行ったのね。

ニール・ダンダン

10月15日 1934年




暗紅色の釘のブーケを持ってきた、というのは罪なくして流される血のシンボルではないか、という指摘があります。

また、繰り返される 私たちの祖先は鋼鉄の鱗に覆われて戦争へ行った、という一節は、十字軍の時代を想起させ、黒死病(ペスト)への連想をさそう、とも言われています